a captive of prince 146




<想いの力 chap.3>



 実妹から聞かされたルルーシュの半生はあまりにも壮絶で、シャーリーは声をあげることも、涙を流す事も出来なかった。
 母親が暗殺されたために父親から切り捨てられた。戦禍に巻き込まれ、ついには国に反旗を翻した。
 しかしそれも阻まれ、またしても父親の野望の駒とされ、今も、ナナリーという人質を取られながら抗い続けている。
「ルルは……ずっと1人で戦い続けて……」
「今は、1人ではありませんわ。
本国のお兄様方、私やスザクさん。ジノさんやアーニャさん。
そして…おそらく、黒の騎士団の皆さん……共に戦う仲間がいます。」
「その中に、私も入れてもらえる?」
「もちろんです。だからこそお話ししました。」
 2人の少女は顔を見合わせて微笑む。が、スザクは難しい顔をナナリーに向けた。
「本当に良かったのかな。
ルルーシュは、彼女を巻き込みたくなかったんじゃ……」
「これは、私が望んだことですから!」
 彼の声を遮るシャーリーの力強い言葉に、スザクは一瞬息を呑んで彼女を見ると肩をすくめ、ばつの悪い顔で苦笑する。
「───そうですね。」
 ルルーシュの思惑はおそらくスザクの考え通りだろう。だが、彼女は自分の意思で全てを知ったうえで、仲間になると言っている。
 カレンをはじめ、ナナリーといい神楽耶といい…このシャーリーという少女も。ルルーシュの周りは心の強い女性ばかりだ。
「これから、どうなるんですか?」
「陛下の計画を阻止するために、その基盤となっている組織を押さえます。
そのうえで、帝位を剥奪します。理由は…私的研究への公費の莫大な流用…横領罪が妥当ではないかと。」
 淡々と説明するスザクに、シャーリーは「はあ…」と相槌を打つ。
 研究を止めさせ、そのために税金をつぎ込んできたことを理由にして皇帝を辞めさせるという事なのだろうと、咀嚼した。
 嘘のない世界を創るための研究……
「陛下は、何故嘘をなくしたいなんて考えたんでしょう。」
 シャーリーは首を傾げた。
「確かに、嘘を吐くことはいけない事だし、それがもとで誤解や喧嘩になることだってあるけれど……
『嘘』て、何を指すんでしょうね。真実ではないこと?
でも、そんな事で定義づけられたら、この世界は嘘で溢れかえっていることになっちゃう。
例えば…体型を気にしている人に太ってますねと、正直に言ったら相手を傷つけちゃうし……相手が心配するとわかっていたら、ちょっと具合が悪いくらいなら大丈夫だって言うし……相手を気遣った気持ちまで『嘘』だなんて言えないじゃないですか。」
 彼女の意見に、全員が頷く。
「確かに、シャーリーさんの仰る通りですね。でも、お父様はそれすらも嘘と考えていらっしゃるようです。
あの方が創ろうとしている世界は、世界中の人々を生者と死者の区別なく1つにしてしまおうというもので……顔も知らない人の経験や考え、亡くなった人の記憶さえも自分のものとなる世界です。
つまり、自分と他人という概念が無くなるので、嘘を吐くことも隠し事もなくなるそうです。」
 ナナリーが苦笑混じりに話せば、シャーリーは目を瞬かせる。
 嘘も隠し事もなく皆が正直な気持ちでいられる世界。
 確かに、それだけ聞けばとても良い事に思える。
 だが……
「……つまり…世界中に人は沢山いるけれど、意識は1人…自分だけになるってことなのかな。」
「恐らく……」
 スザクが引きつった笑みを浮かべる。
「それって……いい事なんですか?
私には全然そうは思えないけれど。
私だけになっちゃったら、恋もできなくなりますよね。
ううん。そんな事じゃなくて、心というか感情さえもなくなる。だって、自分以外のものと関わることで受け取る喜怒哀楽もないもの。何の刺激もない。
私たちは、いろいろなことから刺激を受けて成長してると思う。それもなくなって、進歩もしなくなるんじゃ……
それって…『生きている』て、言えますか?」
 私には、思い出の世界にいるのと同じに思える。
 シャーリーは、顔をしかめて吐き出すように呟く。そんな彼女に、スザクらも眉を顰めた。
「陛下はどうして、世界をそんな風に作り変えたいと思ったんだろう……
私みたいな平凡な女の子が思いつくようなこと、陛下が気が付かないはずないと思うけど……
だって、絶対におかしいよ。
本心を隠した言葉は嘘だと決めつけることも、嘘が全部悪で、人の意識が1つになれば嘘が無くなるなんて。
そんな三段論法、 まるで子供の発想じゃない。」
 シャーリーの言葉にスザクとナナリーは顔を見合わせた。
 スザクの脳裏にまっ先に浮かんだのはV.V.の姿だった。彼がコード保持者となったのは何歳の頃だろうか。容姿から察するに多く見積もっても十代前半。それから彼は成長しなくなった。
「スザクさん……もしかしてお父様は……」
 ナナリーが堅い声で、語りかけてくる。それに、彼は頷いた。
「あの方は……いや、あの方たちは古い契約に囚われ、現実から目を背けてしまったんだ。」
 顔を強張らせる皇子と皇女を、シャーリーは首を傾げて見つめる。
 その時、政庁内にけたたましいサイレン音が鳴り響いた。
『イケブクロ・ステーションエリア内で、発砲。建築中ショッピングモールで黒煙を確認。
ナイトポリスは現場に急行せよ。
繰り返す。ナイトポリスはイケブクロに急行せよ!』
 緊張した声が館内放送から流れてくる。
 シャーリーは体を強張らせた。
「な…に?もしかして、テロ……」
 彼女の表情が見る間に青ざめていく。警報が知らせた地名は、ルルーシュがいるであろう場所である。
 ジノとスザクが警報と共に立ち上がる。執務机の後ろにある広い窓に駆け寄ると、事件が起こっている方向に視線を送った。
 微かに黒い筋のようなものが、空に向かって上っているのが見える。
「確認してきます。」
 ジノがドアに向かって踵を返す。
 ソファでは、シャリーが両手で体を抱えてガタガタと震えている。それを、アーニャとナナリーが慰めるように声をかけていた。
「大丈夫。ここは安全。」
「それに、まだ、テロと決まった訳じゃありませんし……」
 床に膝をつき、背中をさすりながら声をかける少女騎士に、シャーリーは震える声である人物の名を告げる。
「ルル……ルルーシュがイケブクロ駅で降りたの……
まだ、あそこにいるかも……っ。」
 その言葉に、ジノは目を細めると急ぎ足で部屋を出ていった。
「大丈夫……お兄様はきっとご無事です。」
 努めて穏やかに語りかけるナナリーに、シャーリーは何度も頷き震える指先で彼女の手を握った。


 数十分後、スザクの携帯端末にジノからの連絡があった。
 緊張した面持ちで通信に出たスザクの表情は見る間に穏やかに変わった。
「シャーリーさん。おそらくルルーシュは無事です。
あそこで何が起きたのかまだ分かりませんが、ビル内で戦闘があった痕跡はないようです。」
 ただ、騎士風の男が銃で制止する警備員を刺殺したという目撃者が複数いることと、ビルから上がった黒煙は、何かの陽動ではないかというジノの私見が気になるところではある。スザクは、敢えて彼女に伝える必要はないと判断した。
 スザクの報告に、シャーリーは「良かった。」と声を漏らすと両手で顔を覆って泣き出した。そんな彼女の背中をナナリーが擦る。
 自分を慰めてくれている人物がナナリーであることに気が付いた彼女は、はっとして顔を上げ慌てて涙を拭うと、申し訳なさそうに謝辞を伝えた。
「ありがとう。ごめんね……ナナリーの方が私よりもずっと心配なはずなのに。」
「いいえ。お兄様の事をこんなに心配してくださる方が近くにいて、私の方こそ有り難いんです。
今の、私はお兄様の側にいられないから……」
 そう。今はルルーシュの側にはロロという自称弟がいる。
「ナナちゃんの代わりにいる、ロロは……」
「皇帝側の監視者です。いまは味方に引き込んだようですが……」
「そう…ですか。監視……全然そんな風に見えなかったな。
ルルもロロも、お互いが大切で大好きって顔をしているから。」
 シャーリーの言葉に、スザクは眉根を寄せるが、実妹であるナナリーはむしろ嬉しそうに微笑んでいる。
「では、その ロロさんに伝言をお願いしてもよろしいですか?
いつも、お兄様の側にいてくださってありがとうございます。と……」
「いいけど……」
 きょとんとした顔で頷くシャーリーに、ナナリーは心から嬉しそうに笑うのだった。



 やがて、政庁に戻ったジノに伴われて、シャーリーはスザクの執務室を去って行った。
「ナナリー。何故、ロロ宛にあんな伝言を?」
「シャーリーさんが、ロロさんがお兄様を大切に思っていると感じたのであれば、きっとその通りなのだと思ったからです。
人の気持ちに、嘘は付けませんもの。」
 自信をもって答える彼女に、スザクも納得して微笑む。
「そうだね。」







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